この記事では現役銀行員15年目のt-郎(てぃーろう)が、銀行の知られざる内部事情「出世コース」について解説していきます。
銀行の出世コースにはどのようなものがあるの?
銀行で出世コースに乗るにはどうすればいいの?
どのような部署なら出世ができるの?
銀行員として働く方やこれから就活で銀行へ就職を考えている方の中にはこのような思いを持っている方も多いのではないでしょうか?
たしかに銀行の出世コースというのは一見すると複雑そうに見えますよね。
そもそも銀行のトップは「社長」ではなく、「頭取(とうどり)」と呼ばれていることにも違和感があるかもしれません。
そんな銀行ですが、実は出世コースについて基本的な部分はどの銀行も似ています。
その理由は「銀行」自体が政府(金融庁)の管理監督のもとに運営される規制業種だからです。
それゆえ、銀行の業務内容だけでなく内部体制や出世コースについても、自然と似てきてしまう。
現に金融庁からは「金融機関の取締役等の資質規定(Fit and Proper原則)について」といった役員になる人間の資質まで定義されているくらいです。
それでは銀行の出世コースにはどのようなポイントがあるのか、順を追ってみていきたいと思います。
銀行の出世コースの定義とは
銀行の出世はズバリどの「職位」まで昇進するかを指します。
職位というとさまざまですが、主任、課長、次長、支店長、部長、常務、専務、頭取など、呼び方は銀行によって若干異なりますが、一般的にはその中でも「経営層」になることが出世コースの王道といわれています。
銀行の出世は経営層まで昇進すること
銀行員のキャリアにおいて、経営層への昇進は行員が目指すことのできる究極のゴールです。
支店長や部長といった中間管理職を経て、取締役や執行役員などの経営陣に名を連ねることは、銀行員としての集大成といえます。
そもそも銀行における経営層とは、
・頭取(一般企業でいう社長)
・役員(取締役、執行役員などなど、常務や専務と呼ばれる立場の人はココです)
・部長、支店長
といった銀行内部における上位の職位を指す場合が多いです。
経営層への道のりは決して平坦ではありません。業績への貢献はもちろん、経営戦略の立案力、リーダーシップ、そして銀行全体を俯瞰する視野が不可欠です。
さらに、デジタル化やグローバル化が進む今日では、新しい金融サービスへの理解や、変化する経営環境への適応力も重要な要素となっています。
実は、銀行によってはこの経営層全体として備えるべきスキルを明確化し、見える化しているところもあります。例としてみずほ銀行のスキルマトリクスをご紹介します。
引用元:みずほ銀行 取締役会の構成(スキル)
https://www.mizuho-fg.co.jp/company/structure/governance/skill.html
少なくともこのマトリクスにあるようなスキルを経営層は身に付けていなければなりません。その上で、頭取になれるのか、役員なのか、支店長にはなれるのか、といった差が出てきます。
では、それぞれの経営層になるための基本的な情報をお伝えしていきたいと思います。
銀行の頭取になるには
銀行の頭取になるパターンは大きく2つあります。
まず、頭取とは一般企業でいう「社長」にあたる役職です。銀行の最高経営責任者として、経営戦略の策定や重要な意思決定を行います。
名実ともにその銀行の「トップ オブ バンカー」。対外的には銀行を代表し、株主や規制当局との折衝、他行との関係構築を担当。銀行全体の業績と方向性に責任を持ちます。
「やりたいです!」と手を挙げればやらせてもらえるような役職ではありません。
各世代の出世トップ(だいたい10年目くらいまでに選別が終わります)の中から競争を勝ち抜き、役員に選ばれ、さらにその中で前頭取の交代時期やその時々の銀行の情勢を踏まえて適切な人物が選ばれます。
頭取になるパターンとしては大きく以下のパターンに分けられると思います。
①ずば抜けた営業成績で出世も常にトップ
1つ目は支店での営業担当時代はもとより、支店長、本部の企画部門でも実績を上げ続け、営業成績も出世もトップを走り続けるタイプです。単に実績がトップならいいというわけではなく、新しい方法や仕組みをその時々に築いていくなど、結果的に銀行全体に変化をもたらすほど影響力がある人物の場合、営業成績を軸として頭取を目指すことができるでしょう。
②本部など銀行の中枢かつ高度な業務分野を経験したスーパーエリート
2つ目は若い頃から優秀さを銀行に認められたエリートタイプです。この場合、本部業務や外部出向などを中心に、銀行業務の中枢でキャリアを積むケースが多いです。営業成績を評価軸とはされませんが、仕事の処理能力はずば抜けており、経営の中枢である経営企画部門や人事部などを卒なくこなし、最速で出世していく人物として頭取の候補になっていきます。
あくまで一例でありますが、頭取になる、頭取を目指す人物はいずれも人並みではないというのが現役銀行員としての頭取に対する印象です。
銀行の役員になるには
役員についても大筋は頭取になるための出世コースと変わりはありません。
主に取締役会のメンバーとして、担当部門の統括と経営判断に参画します。先ほども触れたように与信判断、人事、財務など各分野で専門性を発揮し、頭取の意思決定をサポート。部門間の調整も重要な役割です。
役員は頭取ほどずば抜けている必要はありませんが、同等の能力が求められますし、場合によっては各分野のエキスパートであることが求められます。
なぜかというと、頭取を除いた役員たちは各セクションの責任者であるからです。
融資の審査部のトップであったり、業務推進の企画部署のトップであったりと各役員の強みを踏まえた配置になりますので、ある分野で突き抜けた成果を上げるような人物は役員への道が開ける可能性があります。
ほとんどの行員が目指す「支店長の椅子」
銀行支店長への道は、多くの場合10年以上の実務経験を要する挑戦的なキャリアパスですが、行員であれば誰もが目指すことのできる役職です。営業や融資、窓口業務などの現場経験を積みながら、徐々に管理職としての経験を重ねていきます。
いわゆる「一国一城の主」といわれ、支店長は銀行における出世コースのひとつの到達点といえます。
最近では女性登用も活性化されており、女性支店長も徐々に増えています。
求められる資質として最も重要なのは、リーダーシップと経営感覚です。部下の育成や業績管理はもちろん、地域経済への深い理解や、リスク管理能力も不可欠です。また、コンプライアンス意識が強く、誠実で信頼される人格も重要な要素となります。
また、デジタル化が進む現代では、新しい金融サービスへの適応力や、変革を推進する力も必須となってきています。
銀行支店長になるには?
では、この代表的な出世コースである支店長になるにはどのような要素が必要となるのか、もう少し具体的にみていきたいと思います。
銀行の出世にはリスク管理能力が求められる
支店長になるためのキャリアパスにおいて、リスク管理能力は不可欠な要素となっています。
融資審査や市場取引など、銀行業務の核心には常にリスクが潜んでおり、その適切な評価と管理が求められます。
早い話が「失敗を極力しない」ことがリスク管理能力の評価に直結するのです。
特に支店長になるまでの管理職(課長や次長)への昇進においては、単なる営業力だけでなく、複雑化する金融商品や経済環境を十分に理解し、潜在的なリスクを予測する力が重視されます。
大きなミスをしない優れたリスク管理能力は、組織の信頼性向上にも直結し、結果として自身のキャリアアップにつながるのです。
支店長を目指すのであれば、まずは法令や社内規定、一般常識について精通し、仕事におけるミスやトラブルを起こさないようリスク管理能力を高めていく必要があります。
銀行で出世する人の特徴
ここまでお伝えしてきたところまとめる話になりますが、大きく3つのポイントとしてまとめておきたいと思います。
①圧倒的な営業成績がある
とにかく業務推進で圧倒的な成績を残し、命令に対してやりきれる能力が高い人物であれば出世は早いです。成果と出世が直結する王道パターンといえます。
②若い頃から能力を認められたエリート
仕事の処理能力がずば抜けており、経営の中枢である経営企画部門や人事部などを卒なくこなせるキャパシティの広さがあり、人格者であることも多いタイプ。
③リスク管理面で大きな失敗がない
上記に加え、キャリアの中で大きな失敗がないこと。例えば大口融資先の倒産や部下の横領など、自身が直接関わっていない場合でも処分の対象となり、キャリアに傷がつくケースもあります。
もちろんこれらがすべてではありませんし、他にも様々な評価軸はあるかと思います。ただ、評価する側からしてもこうした特徴を備えた行員であれば、評価する際に昇進させやすいといえるでしょう。
銀行で出世ができない人の特徴
では反対に出世ができない人の特徴についてご紹介します。
一言でいえば、「銀行で出世する人の特徴」の逆を行くパターンです。現場での営業にしろ本部での企画にしろ、求められた結果が出せなかったり、配属される先々で大きなミスを起こしたりすれば当然出世は遅れます。
また、こうした人にはいくつか特徴があります。
①社内外のコミュニケーションで軋轢を生みがち
コミュニケーションで軋轢を生みがちな人は、早々に出世コースから脱落します。
銀行業務はひとりでは完結できない業務がほとんどです。営業では当然お客様が相手ですし、内部の事務においても、本当に誰かの協力なしにはひとつのタスクすら完結しないのが銀行です。そんな中で評価する側も「コミュニケーションに難あり」な人物を昇進させようとはしないのは当然といえます。
②頑固で融通が利かず、素直さがない
融通が利かず、やたら我を通すタイプや素直に人のアドバイスを聞けないタイプはなかなか成長しません。その結果出世コースからも外れていきます。
銀行業務の幅は広く、すべてをひとりで完璧に覚えることはほぼ不可能です。そのため周囲のアドバイスや指導を受けながら仕事を進めることになります。仮に営業実績で評価を得ようとしても、同僚など周囲との関係がうまくいっていなければ、良い結果が生まれにくいのが銀行業務です。
③向上心がない
学ぼうという向上心がない場合、銀行の出世において致命的になります。
銀行業務は世の中の流れや法改正によって常に変化していきます。この変化に対応するには情報収集や自己啓発による知識やスキルの向上が必要不可欠です。
もちろんそうした積極的な学びの姿勢がなくても銀行員はやっていけます。けれど、営業実績、資格や試験に対する姿勢に向上心がない場合、若いうちの昇進から同期に比べ遅れがちになってしまいます。
こうした特徴は銀行に限ったことではないかもしれません。要するに社会人としての当たり前ができていない場合は、出世コース云々以前の問題となってしまうので注意が必要です。
銀行の出世に資格取得は必要?
ぶっちゃけ資格取得は絶対がんばるべきです。
営業成績で差がつきづらい若手の場合は特にです。
銀行業務検定のような銀行特有の資格のほかにも、FPや宅建士、最近のトレンドではITパスポートなどの公的な資格試験など、銀行では様々な資格試験に大量に受かることが推奨されています。
営業成績は配属されたマーケットやタイミングによって大きく変わりますが、資格試験にはその要因はありません。「本人ががんばって勉強したか否か」によって結果が左右されます。
良くも悪くもすべて自己責任。
そのため、若いうちは必要で早く取れば取るほどアドバンテージがあり、ライバルと差がつけられます。特に合格当たり前の業務検定などは絶対に受かっておく必要があります。
また出世した後、経営層になってからは資格取得はそこまで求められませんが、そもそも日々の知識のブラッシュアップは一般の行員よりも必要不可欠な立場、見えないところで当然に学んでいます。
銀行の出世に学歴は関係あるか?
学歴は昔ほど重視されなくなっています。
過去には大学ごとの派閥があったりしましたが、現在は「●●大学卒だから優遇される」といった体質は薄れつつあります。
実際のところ、少子化や採用難に伴って採用人数が減少し、派閥が組めるほど同じ大学の人材が揃わなくなってきていることも要因のひとつかもしれません。
もちろん銀行という業種柄、出世コースにおいてまったく関係ないわけではありませんし、学歴として低いより高いほうがいいのは事実です。
地銀であれば地元の国公立大学を出ているレベルであれば、出世の障害にはならないでしょう。
銀行の初期配属は出世に影響する?
出世コースと初期配属される部署にはさほど強い関係はありません。
そもそも新卒採用の場合だと、専門職での採用でもない限り、銀行側も新入社員の特性をすべて把握しているわけではありません。
そのため初期配属=適材適所とはならないケースがほとんどです。むしろ、与えられた最初の環境でどのような仕事するかを見られていると考えたほうがいいでしょう。
ただし、そこで出会う上司や同僚はその後の銀行員人生を大きく左右する場合があります。本当の意味での配属ガチャと言えるかもしれません。
銀行は海外転勤が出世に影響する?
メガバンクの場合はグローバルな事業運営が求められることから影響があるかもしれませんが、地銀の場合は海外拠点は事務所だけで支店がそもそもない銀行もあり、影響は軽微です。
銀行で出世コースを外れるとどうなるか?
ここまで「出世するには」という視点から紹介してきましたが、ここでは「出世コースを外れた場合の話をしておきたいと思います。
銀行の場合、職位=給料水準ですから、出世していない場合は収入面で見劣りすることになります。
また、かつての後輩に職位で抜かれて、年上部下となってしまうなどメンタル面で辛く感じる場合もあります。
ではどのような理由で出世コースから外れてしまうのか、代表的な理由をみていきます。
銀行で出世コースを外れる理由
出世の道が断たれる王道パターンは以下のとおりです。
①病気での休職
大きな病気やケガで長期の休職期間があると、出世コースから外れやすくなります。
なぜなら支店長や役員の仕事は一般の行員よりもハードだからです。平日は出張や宴席、土日には取引先と親睦ゴルフやイベントへの参加要請など、仕事として業務時間外での対応も当たり前に増えます。
また、銀行における責任も大きくなるため、大前提としてハードワークに耐えられる人物でなければ、経営層の仕事には任せてもらえないというのは理解できるのではないでしょうか。
②懲戒事案(ハラスメント、業務上の大きなミス)
これまで述べてきたように、リスク管理面での能力に問題がある場合は出世コースから外れやすくなります。
③上司に嫌われる
上司に嫌われると出世や評価に大きく影響します。
特に昇進の査定を直接おこなう上司(支店であれば支店長や次長、本部であれば部長など)との関係が悪い場合は注意が必要です。
評価者が一度つけた記録はずっと保存され、その後の評価者の基準として用いられます。
一度「ダメな奴」とレッテルを張られてしまうと、一緒に仕事をしている期間だけでなくその後の出世スピードや評価にも影響を及ぼすため、やはり上司との関係は良好に保っておくことが必要です。
銀行で出世コースを外れないためにすべきこと
特別なことをする必要はありません。
最低限、健康でいること、人として間違ったっことをしない、上司や同僚との人間関係を良好に保っておく、など当たり前のことを当たり前に継続していくことが大事です。
銀行の部門別出世の常識編
銀行支店長以外のポジションや部署で出世する場合のどのようなケースがあるのでしょうか?
結論として本部の場合は専門性の高さがウリになる場合が多いです。
ここでは主に銀行本部における出世の可能性について解説していきます。
「市場部門」は出世できるのか?
結論:できる
専門性が高く、扱う金額も大きい本部部署の花形のひとつ。求められるスキルも高く、優秀な人材が集まる場合が多いです。出世コースの一部として経験する場合も多い。
「システム部門」は出世できるのか?
結論:できる
業務推進部門と比べて評価が低いこともあります。しかし今後はさらに重要性が増し、必要不可欠となってくるので、この部門で専門性とキャリアを高めていくのは一点突破型の出世コースとしてアリといえます。
「人事部・総務部」は出世できるのか?
結論:できる
人事系部署は出世コースの花形部署です。役員以上になる場合、人事部を経験するケースは多く、また内部事情や社内評価に精通することも大きなアドバンテージとえいます。
「監査部」は出世できるのか?
結論:監査部だからできるわけではない
監査部は主に内部のリスク管理能力が高められる部署です。支店長以上になる場合、必ず経験しなければならない銀行もあるそうです(ただし監査部は現場からは嫌われがちな存在です)。
そういう意味では内部の特殊業務の一部であり、「監査部だから出世しやすい」というわけではありません。
「審査部」は出世できるのか?
結論:できる
融資審査を行う部署の場合、その道一筋で出世していくことも多い部署です。
そのため出世コースは限定的で狭き門にはなりますが、融資審査のスペシャリストとなれば審査部長など役員以上のポジションを狙っていける部署ではあります。
「労働組合」は出世できるのか?
結論:労働組合だからできるわけではない
銀行は社内組合として労働組合を組織しているケースが多いです。
労働組合では人事系部署と同様、内部事情や社内規則にも精通しており、労務管理に詳しくなることは支店長クラス以上で支店や部下を管理する上ではアドバンテージがあるといえます。
銀行によっては出世コースに労働組合経験が出世コースの必須項目だったりする場合もあるそうです。
「中途採用」は出世できるのか?
結論:できる(ただし条件付き)
銀行においても中途採用が増えてきています。
3メガバンク中途採用5割に迫る 24年度、三菱UFJは6割
日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB302420Q4A430C2000000/
中途採用の場合、新卒と異なり採用時点で求められる業務内容が決まっています。
そのため、役員や支店長クラス以上のいわゆる「管理職待遇」で採用された場合には今後出世の可能性がありますが、シンプルに現場の営業として中途で採用される場合は必ずしもスムーズな出世が約束されているわけではないことに留意する必要があります。
まとめ 銀行支店長以外の出世コースも増えてきている
いかがでしたでしょうか?
本部部署を含めれば、銀行内の業務は幅広く、どんどん多様化しています。
そのため今回ご紹介した営業のトップ実績を上げるなど以外にも、出世やキャリアアップの道は増えてきています。
だからこそ、今ある出世のポジションにこだわらず自分自身の知識やスキルを高めていくことで、結果的に出世コースにつながるような、そんな働き方を目指していくのも選択肢のひとつかもしれません。